2019年 3月 4日

「お水の機嫌」

寒気に地が凍える日は、

さすがに客人は途絶えがちとなる。

来る日も来る日も珈琲を淹れ続けて、気がつけば14年。

不思議に思うことがある。

同じ豆を全く同じ手順で淹れたつもりなのに、

昨日と今日とで味がガラッと変わることがあるのだ。

そんな時、マスターは「お水の機嫌かな」と思う。

今、大阪の水は高度浄化処理が施されており確かにクオリティは高い。

だが、この水道水、いつもいつも同質で同等の水が来ているのだろうか?

そんな疑問を持つことがある。

やはり季節やその日の天候等の諸条件により原水の水質には日変化があることであろう。

なので、その時々に対応した水処理の結果には当然違いがでるだろう。

ミネラルの含有量、

消毒薬の残留量、

pH値のぶれ等、

違って当然だと考える。

その水質の微妙な日変化が

珈琲の味にも影響を与える可能性は否定出来ないだろう。

時折、どんなに淹れ方を凝らしても、

気になる雑味が珈琲から抜けないことがある。

方や、どんな淹れ方をしても

得も言われぬ円やかな味わいが

カップを満たしてくれることもある。

取り分け、地が急激に凍えるような時は、

珈琲の味わいが限りなく穏やかになる気がする。

お水の機嫌がいいんだなと感じる。

特に、「雪」という要因。

雪の降る仕組みを詳しくは知らないが、

空の高みで冷気に触れた水分が、

結晶となって舞い落ちたものなのか。

昔、人体にとって一番良い水が雪解け水だと聞いたことがある。

マスターのイメージとしては、

自然界で一番無垢な水、それが雪なのかなと。

雪=天の無垢水。

 

自然界には絶対的な掟があって、

それは「生物の活動はすべて水溶液の中で起きている現象」だという事実。

私たちは水を飲み、水を排泄し、体内では血液やリンパ液が循環し、食べ物が消化され、エネルギーが発生し、筋肉が収縮し、生命活動が持続する。

太陽系以外のことは知らないが、地球は唯一水で満たされた奇跡の惑星。

水が存在するが故に生命は始まった。

そう言えば、ホメオパシーという医療分野では、

水は一番の記憶媒体であり、

自然治癒力を高める性質を備えた一番の薬だそうだ。

だとすれば、水の本質は浄化力(リセット)なのかもしれない。

確かに、降り積もる雪には、

穢れを知らぬ純白の世界のイメージがある。

 

しんしんと天下る真白き雪の降り積む夜に、

この地の喧騒が一時凍てついて、

その雪の結晶が浄化を呼び覚ます。

 

珈琲屋としては、そんな水で

いつも珈琲を淹れたいものである。

 

水。それは生命のふるさと。

水を大事にする事は、命を尊ぶこと。

考えてみれば、水の滴が

空を森を川を海を循環して、

生物の活動を支え、

結果、地球を満たしている。

今日ドリップに落とす一滴の水が珈琲となって

お客様の胃と心を満たし

いずれまた巡り巡って地球を満たす。

マスターがドリップする時のおまじないは、

一滴一滴の水に「ありがとう」。

幸(さき)わう大和の国の最高の言霊、それは「ありがとう」。

今日もまた喧騒の街角で、

ぶつぶつとおまじないを呟きながら、

一杯の珈琲と向き合うマスターなのであった。