あと三つ寝やれば
冬至から早も七日を過ぎて、
あと三つ寝やればお正月。
街のガスもようやく垂れ流しが止み、
空が久しぶりに美味い空気を吸ってやがるぜ。
日の本の国の男の子(おのこ)の端くれとして、
マスターもまた東奔西走しつつ新年の準備に勤しむのであった。ガンバレ。
取り敢えず今日の大事は冬野菜の確保だ。
マスターの祖父さんが開拓して今や三代目の兄さん(従兄弟)が跡を引き継ぐ畑に、
選りすぐりの野菜を頂きに参上。
この畑には、昭和50年代からのうちらの一族の歴史が刻まれているのだ。
何か深刻な問題事には、「祖父さんの畑で話そ」と、
今のうちらの世代には失われた血族の喧々諤々(けんけんがくがく)の遣り取りの歴史がその土には染み込んでいるのだ。
その主らも今や鬼籍の人々。
だからこそここの野菜は、
マスターにとって特別に滋味深い。
日暮の地平は見事な金色(こんじき)。
冥土の穴が覗いているかのような空の境は深い漆黒。
この地には過去も未来も
此岸も彼岸も全てあるよな
野菜引く。