特別な友人
今日は特別な友人を見舞いに大阪市内の病院まで自転車で訪れた。
少し汗ばむ晴れ間のもと、大川沿いを下りつつ、君はこんな道も自転車を走らせながら僕の店まで足繁く通ってくれたのかなと
開店当初の日々を回想した。
あの頃のお客様と言えば、近所の80を超えたSおばぁか大阪市内に住む君くらいなもので、
よくお題目コーヒーとか言って遊んだ。
「しぐれ」コーヒー作ってとか、今オリンピックやから「五大陸」コーヒーとか、あの人の命日やから「想夫恋(そうふれん)」作ってとか、徒然のお題目に合わせて僕はコーヒーを創作して淹れた。
店の常連というものはその時々で顔ぶれは随分と様変わりをするもの。
人は存外その場所に留まり続けることは難しいのだ。
所詮人は皆人生の旅がらす。のっぴきならぬ事情に余儀無くされる。
いつの間にやら君は顔を見せなくなった。
そんな君が病に臥せっていると聞き、連絡したのが七日前。
君の病は思った以上に重篤だったようで、この1週間で事態は急変したんだね。
君から聞いた病室はもぬけの殻で、退院の詳細はご家族にお尋ね下さいと、丁寧に言われた。
為す術もない僕は、自転車を走らせながら物思う。