月の影
地平に大きな月が出たと妻が電話で知らせを寄こす。
慌てて東の空を探しに行くが都会の空は低い所が混み合っているのでしばらく待ってようやく屋根の角から顔を出す。
夕間暮れの空に真円の月。
僕はそれを神社の境内から望んだ。
張り詰めた晩秋の夜気に晒されて真円の月はまるで世界の孤独を歌っているかのように見えた。
永久(とこしえ)の昔より未来永劫に至るまで在りて在り続けるそのものを前にして人の思惑なんて所詮はいつも囚われのものでしかなく朧げで頼りなげで儚げだ。
月はそんな孤独を引き連れながら斜め上方向へとどんどん登って行く。
月が悲しいのはその裏側を決して見せないからだろうか。
人知れず埋もれて行くものを持てばこそ人は愛おしい。
わたくしの悲しみもまた月の影

