春へ
薪をくべながら寒い冬をやり過ごす。
麦を踏みながら来る春に備える。
井戸の水を汲み、飯を炊き、干物を炙り腹ごなしをする。
私の暮らしの中で私が愛おしいと感じるままのもので生きてゆけたら。
私なりの様式美。
生活の一コマ一コマに宿る、心を弾ませる事ごとを掬い上げながら暮らしたい。
世の中が一層デジタルに直進する今だからこそ、
もっと曖昧で細かく突き詰めないものへの愛着が湧く。
心から愛おしいと思える物事とそして人々。
数値では決めつけられない味わいの深さ。
草花のゆらぎ、空気の気配、時の移ろい、
空の加減、味の塩梅、音の粒だち、色彩のニュアンス、紙のざらつき、そして人の心の機微。
愛おしきを訪ねながら春へと向かう。