父
まだ小学生にも満たないお向かいのヒロキ君。
エマの閉店間際、せっせっと一人で家族バーベキューの準備に忙しそう。
マスター:「ヒロキ君、テーブル一人で準備出来て偉いなぁ」
ヒロキ君:「ウン!ヒロキな、力持ちやねん。ネェちゃんはずっとテレビゲームばっかりやってんねんけどな、ヒロキは今日はお父さんの日やからやっててケーキもあんねん」
ちょっと感動したマスター:「ヘェー、偉いな、ええなぁ、楽しみやなぁ。しっかりお父さん喜ばしたりや!」
得意げなヒロキ君:「ウン、まかしといてぇ!」
マスターには子ども時分に父の日に張り切った思い出は、無いなぁ…。
思い起こされるのは、超狭小住宅に一家四人が布団を並べた昭和のボロ屋とそこにこもる父の金気(かなけ)臭い服の匂い。
見上げると薄曇りの空にぼんやりと日輪。
今日は、夏至で皆既日食で新月で、そして父の日か。
無口な父の中には、いろんなこもごもが宿るのを象徴しているかのようだ。
死に物狂いで働いたお父ちゃん。
命を削って働いたお父ちゃん。
すべては子供達の為に。
オンボロでも我が家。
ボサボサでも我が父。
もっとも大切だったのは、
明日への祈りと父の愛。