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エマ通信

2021.06.24

一周忌

『一周忌』

(昨年、2020年6月23日の過去記事より)

「今日は、抜けるような青空が広がる。
今週は雨が続くとの予報であったと記憶するのだが、私の勘違いか、この梅雨の晴れ間は想像だにしていなかった。

実は、先週末に知人の訃報を受けとった。
その知人の奥様は8年前に他界されており、以来、彼は男手ひとつで残された幼い子供たち三人を今日まで育て上げた、実に偉い男なのである。
彼の仕事は大手製パン会社の配送業務であったから、昼夜を問わない激務が日常的に続いたはずで、なんのお洒落っ気もない彼の風貌からして、なりふり構わず働き通したことが伺える。

あれは何年前だったか。一度前触れなくふらりとエマを訪ねてくれたことがあった。
他愛もない話題を交わして最後に彼が聞いてきたことが、「ところでマスターはどこで散髪してますか?マスターだったらお洒落な散髪屋に行っているんじゃないかと思って」、との質問。
その時は私の行き付けの理髪店の情報を伝えはしたが、その後彼がその店に行ったかまでは知らない。
彼の訃報に触れ、今思い出す他愛もなかったこの時の会話。
でもきっと、その問いがその時の彼の来訪の一番の目的だったように思えてならない。
さて、その時の彼にあったお洒落をする必要に迫られた事情とは何だったのか?
今となってはもう私には測りようもないが、子供達にはもしかしたら思い当たる節があるのかも知れない。
それは一番下の娘さんのことであったり、長男、次男の諸事に関わるものだったり、いずれにせよきっと子供らに絡む何かであったには間違いあるまい。

伴侶を失ってからの8年間、子供らと過ごした歳月には並々ならぬ労苦があったことであろう。
こちらが話しかけることにいつも言葉少なく照れや苦笑いで答えていた温厚で善良で純心でロマンチストで出過ぎることの一切なかった優しい君。
頑強な恵まれた体軀の君が、突発性の難病に見舞われるなんて、そんなこと誰が想像出来たろう。君はあっという間に逝ってしまった。
きっと本人が一番驚いている。

この8年の間に子供らは実に成長を遂げていた。
上の子は大学生となり今二十歳だ。
次男はこの春から就職して、職場ではとても可愛がられている様子。
長女は高校2年生となり、すらりと背が伸びて気品を兼ね備えた美しい娘さんになっていた。
ほぼ8年ぶりに会った子供らの見違えるほどの成長ぶりには圧倒される。

私たち夫婦にとって、君たちのお父さんお母さんとのご縁はかけがえのないものです。
なぜ巡り会えたのか。それはすべて神様の采配によるもの。
だから僕たちはいつまでも君たちを見守る。
みんな素直な良い子たちだ。
君たちのご両親がそうであったように、神様への祈りと愛を持って君たちと付き合い続けたいと思う。
これからもどうかよろしくお願いする。

今日、無事に葬儀を終えて、晴れ上がった空に両手をしっかりと合わせました。」
(過去記事ここまで)

あれから丁度一年。
一周忌に合わせて、無事にご両親の納骨を終える。
逞しく成長している子供たちにかける言葉は必要はないけれど、以下に私の所感だけ、少し出しゃばる。

一人の人間の命。
それは、この宇宙の重みそのもの。
一人の人間の一生。
それは、かけがえのないこの宇宙の物語りそのもの。
あなたもわたしも人類の物語りを語り得る唯一無二の主人公だ。
今この場所で抱く私の思いが、
語る言葉が、
行いが、
人類の歴史となって綴られて行くのだ。
私もいずれはこの世を去る身。
それを無常という事なかれ。
この身の証を石に刻む必要は無く、人生は等しく次代へと引き継がれて行く。

君たちのご両親のことは、実のところ私たちは良くは知らない。
けれど知ろうが知るまいが、縁を賜ったのだから、
それは親の想いがそうさせたのであって、
僕たちは出来る限りのお付き合いをこれからもして行きたいと思っている。
僕たちの世代が思いもしなかった新たな価値の時代を生きる君たちを応援したいと思う。
なので、これからもよろしくお願いする。